どんたむれんじゅ blog

「どんたむ焼きと絵本 どんたむれんじゅ」「酒とめし どんたむれんじゅ」     同じ場所で昼と夜は違う顔の店になる

順天 郡山のいい店だったなあ

 「ふくトマ」という市民団体を主宰していた頃、福島県郡山市には度々行った。

 行くと、夜はスタッフや福島県内の知人と飲みに出たが「安兵衛」や「くしぜん」

によく行った。「鷹野」にも数回行ったな。

 そんな中、もっとも記憶に残っているのは一人で行った「順天」という焼き鳥屋。

 もう、外見から時代を感じさせる店で、傾いた軒先の赤いテントが魅力的だった。

 順天がある通りは、焼肉屋や焼き鳥屋が多く、昭和の香りを残した渋い通りだった。

 行ったのは一度しかない。

 前年にも、スタッフの一人と行こうと思ったのだがちょうど看板になったところで入れず、翌年に一人で行ったのだった。

 

 行った時のことを記そう。

 

 あれは19時くらいだったろうか、ビジターには入りづらい店。

 意を決して、引き戸を引くと手前はカウンターだけで奥は座敷、80歳前後のお姉さんと50代と思わしきお姉さんの二人。親子だったのかな?

 カウンターは満員のようだが…「空いて…ますか?」と尋ねると、上のお姉さんが不機嫌そうに「そこ!」って感じで俺の足元の方を黙って指差す。

 灯台下暗しとはこのこと、戸を開けたすぐの椅子が1脚空いていた。

 座ったがメニューがない。

 見渡しても飲み物しか貼ってないので(よく見たら飲み物の張り紙の下に貼ってた)、適当に「鳥精、砂肝、ハツ」などと言ってみる。

 砂肝がなかったような気がする。

 

 ビールをもらい、すぐに日本酒にした。

 「燗を付けて」というと、これがまた見事にベコベコのアルミのちろりで出てきた。

 「ベコベコのアルミのちろり」の見本みたいなもの。

 後から、なぜベコベコか分かった。

 だって、お姉さん、洗ったちろりをボンボン放り投げるんだもん。

 

 焼き鳥はうまい。

 店の雰囲気も、お姉さん含めて時代がかかっていてとても良い。

 奥は座敷だ。

 大学生らしき一段が騒いでる。

 その喧騒状態もいい。

 

 いい具合で呑んでると、隣で呑んでた男性と仲良くなった。

 二人で他愛ない話で盛り上がり、大笑いすると、年上のお姉さんが、

「うるさい」。

 叱られた。

 周りのお客さんに気を使えと言う。

 いや、座敷から大笑いの声が聴こえるんだけど。

 

 隣の男性はお馴染みさんらしく慣れたもの。

 とりあえず、二人で声のトーンを落として話すが、やっぱりちょっとしたら笑い話で盛り上がる。するとお姉さんがまた

 「うるさい」

 「はい」

 

 この男性がビールを注文した(瓶)。

 すると、ビールを出してくれた若い方のお姉さんがこの男性に向けてコップをぐい!と突き出す。

 客に瓶とコップを渡し、客には注ぎもしないのに、自分には注ぐように求める。

 男性は、素直に注いでやる。

 いつものことなんだって。

 この構図がめちゃくちゃ面白かった!

 

 接客態度はお世辞に良くはないが、それを打ち消し「こんなもんだろ」って笑わせるような、店の雰囲気と二人のオーラ。

 ラーメン屋とかで、威張ってる親父は嫌いだが、これはその世界を突き抜けている。

 こっちもヘイコラする必要はないわけで、笑えない状況になったらいつでも出てきゃいい。

 

 さて、この店、今はもうないようだ。

 この地域が再開発となり、多くが立ち退いて、この店も廃業したらしい。

 なんでも昭和23年頃に策定された都市計画が、徐々に進められてきたがバブル時代に土地の値段が上がって誰も売らず頓挫した。しかし、コロナで土地の売却や店舗の移動に応じる店が増えて、計画が再始動したということらしい。

 

 もう一回行きたかったなあ。

 

参考「ふくトマ」について

 2012〜2021まで活動した市民団体。福島原発爆発事故による放射能汚染から子どもたちの被曝を少しでも避けようと、苫小牧及び白老で1週間程度「保養」という受け入れを行なった。対象は幼稚園相当の年齢とその兄弟、保護者。