飲食店を始めたというのに、どこかで修行したという技術の裏付けもなく「俺の作るものは本当に美味しいのかなあ」と漠然とした不安を抱えたままだった。(正直言って、今だってそんな自信があるわけではない)
11月末か12月始めか。
冬のメニューとしておでんを始めた頃、落ち着いた感じの髪の長い女性が一人で来店されておでんを注文された。
おでんは、今はどんぶりにレンゲを添えて出しているが(2月末で終了したけど)、最初数回は皿に盛ってレンゲを添えて出していた。
その時も皿に盛って出した。
他にも注文されたので調理していたが、振り返ると、その女性が皿を持って皿に口を付けてつゆを飲もうとしている!
しまった!! レンゲを添えるの忘れた!
「あっ!すみません! 今、レンゲお持ちしますっ!」
その時、私は思い出した。
キツネがツルに意地悪して、スープを平たい皿に入れて出す童話を。(キツネとツルのご馳走)
カウンターの端にいた女性に走ってレンゲを届け
「申し訳ありません、添えるのを忘れてしまって」
「いえ、あんまり美味しかったので、どうしてもつゆを飲みたくて、お手間かけて」
「ありがとうございます。いや、ありがとうじゃないですね、ごめんなさい、そんなことさせて」
このあと、彼女はもう一度来てくれた。
お得意さんになってくれるかなと淡く期待したが、翌月早く、仕事の関係で苫小牧を離れると言った。
結局、来てくれたのはこの2回だけだった。
名前も聞いていないし、行き先も聞いていない。
もし、このブログを偶然読んでくれたら...。
あの時は、恥をかかせてごめんなさい。
でも、あのおかげて少し自信がついて、今もなんとかやってます。
メニューも少しづつ増えました。
苫小牧に来ることがあったら、寄ってみてください。
汁物にレンゲ添えるのを忘れない程度には成長してるはずです。